大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所 平成5年(ワ)1141号 判決

甲事件原告

今田里子

(以下「原告今田」という。)

和興産業株式会社

(以下「原告和興産業」という。)

右代表者代表取締役

中島厚子

甲事件原告

ヤマトハウス株式会社

(以下「原告ヤマトハウス」という。)

右代表者代表取締役

宇佐美政吉

甲事件原告

才野慶子

(以下「原告才野」という。)

乙事件原告

桜原正男

(以下「原告桜原」という。)

青木治夫

(以下「原告青木」という。)

丙事件原告

藤木春美

(以下「原告藤木」という。)

古賀昇

(以下「原告古賀」という。)

丁事件原告

池田敏明

(以下「原告池田」という。)

溝口徳幸

(以下「原告溝口」という。)

本坊千鶴

(以下「原告本坊」という。)

右原告ら一一名訴訟代理人弁護士

河野美秋

井上道夫

一瀬悦朗

岩田務

大神周一

甲能新兒

久保井摂

平田広志

吉村敏幸

中野和信

甲、乙及び丙事件原告ら訴訟代理人弁護士

平山泰士郎

甲及び乙事件原告ら訴訟復代理人弁護士丙及び丁事件原告ら訴訟代理人弁護士

野田部哲也

全事件被告

日本教育開発株式会社

(以下「被告会社」という。)

右代表者代表取締役

横山周平

右訴訟代理人支配人

上杉陽光

全事件被告

横山周平

(以下「被告横山」という。)

上杉陽光

(以下「被告上杉」という。)

佐藤三千夫

(以下「被告佐藤」という。)

中村安則

(以下「被告中村」という。)

森本雅之

(以下「被告森本」という。)

同(ただし、原告桜原関係を除く。)

山田茂樹

(以下「被告山田」という。)

甲、乙及び丙事件被告

神福三

(以下「被告神」という。)

甲事件被告

末森茂

(以下「被告末森」という。)

青木雅明

(以下「被告青木」という。)

久徳秀昭

(以下「被告久徳」という。)

丙事件被告

佐々木猛

(以下「被告佐々木」という。)

丙及び丁事件被告

前田憲二

(以下「被告前田」という。)

被告横山、同佐藤、同中村、同森本、同山田、同神、同末森、同青木、同佐々木及び同前田訴訟代理人弁護士

内堀正治

主文

一  別表一各項の被告欄記載の各被告は、連帯して、同項の原告欄記載の原告に対し、それぞれ同項の認容額欄記載の金員及び右金員に対する平成五年九月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  別表一の原告欄記載の各原告(ただし、原告和興産業及び同ヤマトハウスを除く。)のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、別表一各項の被告欄記載の各被告と同項の原告欄記載の原告との間において、それぞれ各被告の連帯負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

別表一各項の被告欄記載の各被告は、連帯して、同項の原告欄記載の原告に対し、同項の請求額欄記載の金員及び右金員に対する平成五年九月一一日から完済に至るまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

第二  事案の概要

本件は、各原告が、それぞれ被告会社の社員による違法な勧誘行為に基づき被告会社との間で締結した「教導塾」又は「東大教育センター」と称する学習塾(以下「塾」という。)の経営を目的とする加盟契約(以下「加盟契約」という。)により被告会社に支払った塾の開設資金(以下「開設資金」という。)について、それらはいずれも被告会社及びその取締役や社員などの不法行為によって支払わされたものであるとして、被告会社、当時の被告会社の代表取締役、取締役及び被告会社の社員であった各被告に対し、不法行為責任又は取締役の第三者に対する責任に基づき、各原告が支払った開設資金などの後記損害の賠償金及び民法所定の遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  別表二各項の原告欄記載の原告(以下「各原告」という。)は、いずれも、同項の担当者欄記載の者(以下「担当者」という。)の勧誘により、同項の契約締結年月日欄記載の日に被告会社との間で加盟契約をそれぞれ締結し、同項の開設資金欄記載の金員を被告会社に塾の開設資金としてそれぞれ支払った。

2  被告会社は、昭和四八年の設立であるが、昭和六二年六月一二日当時の資本金は三二〇〇万円、「教導塾」又は「東大教育センター」と称する塾の経営などを目的とする株式会社であり、別表二各項記載のとおり各原告との間で加盟契約が締結されて各原告から開設資金が支払われた当時、被告横山は被告会社の代表取締役、被告上杉、同佐藤、同中村、同山田(ただし、原告桜原関係は除く。)、同森本はいずれも被告会社の取締役、同表支社長欄記載の被告末森、同佐々木及び同前田はいずれも被告会社福岡支社長、担当者である被告神、同青木及び同久徳並びに道前、佐藤、柴田、善及び西出はいずれも被告会社福岡支社の社員であった者である。

二  争点

1  各原告に対する違法な勧誘行為の有無(請求原因)

担当者は、前記(一の1)の各原告との間における加盟契約締結に際し、各原告に対し、いずれも、被告会社が確実に生徒を多数集めることができるという見通しもなく、また、被告会社が派遣する講師は被告会社で研修、養成した専門の講師でないにもかかわらず、被告会社が生徒を多数集めることを確約したり、被告会社が研修、養成した専門の講師を派遣することを確約するなどの虚偽の内容を説明して加盟契約締結を違法に勧誘した。その結果、その旨誤信した各原告は、前記(一の1)のとおり加盟契約を締結して開設資金をそれぞれ支払った。

2  被告らの責任の有無(請求原因)

(一) 被告神ら担当者の不法行為責任

被告神ら担当者は、いずれも、その説明内容が虚偽であることを知りながら、ないしは十分にこれを知り得たにもかかわらず、前記(二の1)のとおり、各原告に対し、加盟契約締結につき違法な勧誘をした者である。したがって、被告神ら担当者は、各原告に対し、その違法な勧誘行為によって各原告が被った後記損害について、いずれも民法七〇九条に定める不法行為責任を負わなければならない。

(二) 被告会社の責任

(1) 被告会社自身の不法行為責任

被告会社は、後記((三)の(1)、(2))のとおり代表取締役である被告横山をはじめ取締役及び社員が一体となって、各原告に対し、いわば会社ぐるみで前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為を組織的に行ったものである。したがって、被告会社は、自身の不法行為として、各原告に対し、担当者が行った右違法な勧誘行為によって各原告が被った後記損害について、いずれも民法七〇九条に定める不法行為責任を負わなければならない。

(2) 被告会社の使用者責任

被告会社は、前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為を行った担当者の使用者である。したがって、被告会社は、各原告に対し、担当者が被告会社の事業の執行に関して行った右違法な勧誘行為により各原告が被った後記損害について、いずれも民法七一五条に定める使用者責任を負わなければならない。

(3) 契約締結上の過失責任(予備的)

被告会社と各原告との間で締結された加盟契約はいずれもフランチャイズ契約であるから、このような契約を締結するに当たり、フランチャイザーである被告会社は、各原告に対して合理的根拠のない事実や意見を述べてはならず、適正な情報を提供する信義則上の義務を負っているにもかかわらず、右義務を怠り、むしろ前記(二の1)のように担当者を通じて虚偽ないし不正確な情報を提供して各原告の判断を誤らせるような勧誘行為を行った。これは、右信義則上の保護義務に違反するものであるから、被告会社は、各原告に対し、契約締結上の過失責任として、右勧誘行為により各原告が被った後記損害を賠償する義務を負うものである。

(三) 被告横山、同上杉、同佐藤、同中村、同森本及び同山田(ただし、原告桜原関係を除く。)(以下「被告横山ら」という。)の責任

(1) 被告横山ら自身の不法行為責任

被告横山らは、いずれも被告会社の取締役として取締役会の意思決定などにより、担当者を自分の手足として用い、前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為により各原告に後記損害を与えたのである。したがって、被告横山らは、各原告に対し、各原告が被った後記損害について、いずれも民法七〇九条に定める不法行為責任を負うことになる。

(2) 被告横山らの共同不法行為責任

前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為は、被告会社の取締役会の意思決定などを通じて被告横山らと担当者とが一体となっていわば会社ぐるみの行為として行われており、被告会社の取締役である被告横山らの行為と担当者の違法な勧誘行為との間には客観的関連共同性が認められるところである。したがって、被告横山らは、各原告に対し、右違法な勧誘行為により各原告が被った後記損害について、いずれも民法七一九条に定める共同不法行為の責任を負わなければならない。

(3) 被告横山らの取締役の第三者に対する責任

前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為が取締役会の意思決定に従っていわば会社ぐるみで行われた以上、被告会社の取締役である被告横山らは、右行為について商法の定めに基づき負っている取締役としての監視義務を悪意または重過失によって怠ったものというべきである。したがって、被告横山らは、各原告に対し、各原告が被った後記損害について、商法二六六条の三に定める賠償責任を負わなければならない。

(四) 被告末森、同佐々木及び同前田(以下「被告末森ら」という。)の責任

(1) 被告末森ら自身の不法行為責任

被告末森らは、別表二記載のとおり、各原告が加盟契約を締結した当時被告会社福岡支社長として担当者をそれぞれ自らの手足として用い、自ら前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為を行って各原告に後記損害を与えた者である。したがって、被告末森らは、各原告に対し、各原告が被った後記損害について、いずれも民法七〇九条に定める不法行為責任を負わなければならない。

(2) 被告末森らの共同不法行為責任

被告末森らは、前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為を担当者とともに推進、是認してきた者であるから、被告末森らのこれらの行為と担当者の右不法行為との間には客観的関連共同性が認められることになる。したがって、被告末森らは、各原告に対し、各原告が被った後記損害について、いずれも民法七一九条に定める共同不法行為責任を負わなければならない。

(3) 被告末森らの代理監督者責任

被告末森らは、別表二記載のとおり、担当者の直接の上司である被告会社福岡支社長として、使用者である被告会社に代わって現実に事業の執行を監督する地位にあったものであるから、各原告に対し、担当者が右事業の執行につき行った前記(二の1)の各原告に対する違法な勧誘行為により各原告が被った後記損害について、いずれも民法七一五条二項に定める代理監督者の責任を負うことになる。

3  各原告の損害の有無(請求原因)

(一) 開設資金

各原告が、被告らの不法行為に基づき被告会社に開設資金として支払ったことにより被った損害は、原告今田及び同和興産業は各三五〇万円、同ヤマトハウスは八〇〇万円、同才野は二五〇万円、同桜原は二三〇万円、同青木は三七〇万円、同藤木は二七〇万円、同古賀、同池田及び同溝口は各三七〇万円、同本坊は三九五万円である。

(二) 慰謝料

被告会社との間の加盟契約により安定的な収入を得ようとした原告今田、同才野、同桜原、同青木、同藤木、同古賀、同池田、同溝口及び同本坊の期待は、無残にも被告らによって踏みにじられ、右原告らの被告会社に対する抗議や要求も再三にわたり無視され、その結果、右原告らが被った精神的苦痛は大きく、その慰謝料はいずれも五〇万円を下らない。

(三) 弁護士費用

原告桜原及び同青木を除くその余の各原告は、本訴を提起するに際し、いずれも原告ら訴訟代理人らにその手続を委任した者であるが、その費用として原告今田、同和興産業、同池田、同溝口及び同本坊についてはそれぞれ四〇万円、同ヤマトハウスについては八〇万円、同才野については三〇万円、同藤木については三二万円、同古賀については四二万円を相当因果関係がある損害として認められるべきである。

4  過失相殺の可否(抗弁)

(被告らの主張)

各原告は、それぞれある程度の生徒は集まるだろうという考えのもとに加盟契約を締結したものであり、特に、いずれも自宅ないしその近くに塾を経営することにしたものであるから、立地条件も加盟契約の締結に当たり自ら判断したものである。したがって、仮に生徒数の予測違いがあったことなどについて被告らに損害賠償責任があるとしても、その一端の責任は各原告にもあり、その意味で、損害額算定に当たっては各原告の右過失が斟酌されるべきである。

(各原告の主張)

過失相殺は、損害の公平な分担を目的とするものであるところ、本件のような加害者の故意行為により損害を被った被害者と加害者の非難度を考えれば、前記(二の1)のように担当者の説明を各原告が信じたこと自体を法的に過失と評価して過失相殺をすることは極めて不当である。特に、本件において過失相殺を認めれば、本件の違法な勧誘行為により被告らが取得した金員の保有を一部とはいえ被告らに認めることになり、いわば被告らの「やり得」を是認することになるから、妥当ではないといわなければならない。

第三  原告和興産業の被告久徳に対する請求について

原告和興産業は、被告久徳に対する請求の原因として前記事実(第二の一の1、同二の1及び同二の2の(一)のうち被告久徳に関する部分並びに同二の3の(一)及び(三)のうち原告和興産業に関する部分)を主張した。これに対し、被告久徳は、適式な呼び出しを受けたにもかかわらず、本件口頭弁論期日に出頭しない上、答弁書その他の準備書面を提出しない。したがって、被告久徳において右請求原因事実は明らかに争わないものとして、これを自白したものとみなす。なお弁護士費用については四〇万円を右被告久徳の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。したがって、開設資金名下に出捐した三五〇万円及び弁護士費用四〇万円合計三九〇万円及びこれに対する右不法行為日後の民法所定の遅延損害金の支払を求める原告和興産業の被告久徳に対する本訴請求はすべて理由がある。

第四  争点に対する判断

一  各原告に対する勧誘行為等

証拠(甲一の一ないし三、二の一及び二、三の一ないし六、四の一及び二、二三ないし二七、五六、五七、五八の一及び二、六〇、六四、六五の一、六五の三ないし六、六六の一ないし一〇、六七、六八、七二の一ないし三、七二の四ないし九の各一及び二、七三の一及び二、七三の三の一及び二、七三の四及び五、七九、八〇、乙一の二、三ないし五、七、九ないし一一、一三ないし一一六、一一八ないし一二〇、一二二ないし一五六、証人本坊の証言、原告今田、同和興産業代表者、同ヤマトハウス代表者、同才野、同青木、同桜原、同藤木、同古賀、同溝口及び同池田の各供述)、前記争いのない事実及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠(被告末森、同前田の各供述)は、いずれも到底信用できず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。

1  原告今田関係

原告今田は、福岡市博多区呉服町で保育園を経営している者であるが、平成元年一月二〇日ころ、被告会社から「学習塾を始められませんか。月二〇万円くらいになります」などと電話による塾開設の勧誘を受けたので、当時塾開設の希望を持っていたこともあって説明を求めたところ、翌日被告会社の営業担当社員である被告神が原告今田を訪れた。被告神は、呉服町付近の小、中学校の生徒数が減少傾向にあるので、呉服町での塾開設は無理であると考えて自宅のある福岡市南区で開設したいと述べる原告今田に対し、「生徒集めは私たちがします。三〇人は必ず集めてみせます。何としても成功させたい、いや成功させます。広島の本社で専門の講習を受けた専門講師を派遣します」などと説明して呉服町での塾開設を勧めた。それでもなお呉服町での塾開設は無理ではないかという疑問を拭いきれずにいた原告今田が「生徒を三〇人集めることを約束できますか」と問い質したのに対し、被告神は、「調査したところ、かなりの数の人が塾があれば通わせたいと言っている。生徒は半径数キロメートル以内から来るので、その範囲内には教導塾は開かせない。呉服町の他、千代町、香椎からの生徒も集める」などと説明して生徒を少なくとも三〇名集めることを確約した。そして、その後も被告神は、ほとんど毎日のように原告今田を訪れては加盟契約を締結して呉服町での塾開設を強く勧めたので、被告神の右説明を信じた原告今田は、同月三一日、教導塾呉服町校の加盟契約を締結し、開設資金三五〇万円を支払った。

ところが、同年三月一六日に開催された説明会の参加者は二名にすぎなかったので、原告今田は、被告会社の担当者である大谷某に対策の有無を問い質したところ、大谷は「何もない」というのみであった。そこで、同月二五日、原告今田は、被告神に善処方を依頼したところ、被告神は、「自分は営業担当で、生徒集めは指導部担当である。自分の役目は契約成立で終わったから、その後のことは何もわからない」というばかりであった。また、生徒も塾開設の際はわずか一名のみであり、その後も三、四名という状態で推移したにもかかわらず、その後の被告会社がとった生徒募集の方法は従前と同様に、同年八月に新聞折り込み広告を一度出し、ポスターを一度貼るといったお座なりなものであった。また、被告会社から派遣されてきた講師三名の内、当初来た講師は二日で辞め、次の講師は大学のアルバイト学生であり、三人目の講師は教員資格は有するものの、いずれも被告会社の講習などを全く受けたことはなく、しかも、右講師の中には授業中飲食したりしばしば遅刻する者もいた。これに対し、原告今田は、再三にわたり生徒募集など要求をしたが、被告会社は、これを無視したばかりでなく、平成二年九月一〇日、右加盟契約を解除した。

2  原告和興産業関係

原告和興産業は、代表取締役中島厚子(以下「中島」という。)の亡夫が経営していた一人会社であったが、中島の夫が死亡して以来何ら稼働しておらず、自宅敷地内に存する事務所も空室となっていた。そこで、その活用を考えていた中島は、昭和六三年一二月、ころ、被告会社の塾開設を勧誘する新聞折り込み広告を見て、被告会社に問い合せの電話をした。すると、被告会社の営業担当社員である被告久徳は、直ちに中島を訪れ、「被告会社が責任をもって生徒を集める。場所がよいので成功は間違いない。月収一〇万円は確実です。講師はアルバイトではなく、広島の本部で講習を受けた者ばかりです。被告会社が一切をするので、部屋を貸してくれるだけでいいのです」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そして、被告久徳は、一度は中島から断られたものの、被告末森とともに三日間程連日中島を訪れ、前回同様の説明を繰り返した。そのため、被告久徳らの右説明を信じた中島は、原告和興産業の代表者として、平成元年一月二六日、教導塾日佐校の加盟契約を締結し、開設資金三五〇万円を支払った。

ところが、被告会社は、説明会を一度開催したほかは、新聞折り込み広告を二回しただけであった。また、被告会社が派遣してきた講師四名の内三名は大学や教員養成所のアルバイト学生であり、しかも授業途中で飲食するなどその態度も悪く、講師として派遣されるにあたって被告会社の研修などを全く受けていなかった。そのため生徒の父兄からの抗議が度重なり、中島は被告会社に対して何度も講師を代えるよう要求したが、被告会社はこれに応じなかった。また、塾開設当初の生徒は五名であったが、同年九月以降は二、三名の状態が続き、その結果塾経営は赤字の状態のままだったので、中島は、平成二年七月三一日限りで塾を閉鎖した。

3  原告ヤマトハウス関係

原告ヤマトハウスは、住宅等の建築請負業を営んでいるところ、その代表取締役宇佐美政吉(以下「宇佐美」という。)は、昭和六三年一二月ころ、被告会社の営業担当社員である道前から電話による塾開設の勧誘を受けた。その直後に原告ヤマトハウスの事務所を訪れた道前は、生徒の募集と優秀な講師の確保について質問する宇佐美に対し、「生徒募集は被告会社ですべて行う。一年間で二クラス七二名は必ず集める。講師についてはアルバイト学生は絶対に使わない。自社の養成した優秀な講師を派遣します。アルバイトは一切使用しません」などと説明し、更にその後も宇佐美に対し、「会社の方で前原の地域を専門で調査したところ、この地域ならば絶対に生徒が集まる。会社のノウハウによりそういう結果が出ました」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そこで、道前の右説明を信じた宇佐美は、原告ヤマトハウスの代表者として、同月一五日、教導塾前原東校の加盟契約を締結し、その開設資金として三五〇万円を支払い、更に、道前の勧誘もあって、平成元年二月一日、教導塾加布里進学校の加盟契約を締結し、同日までにその開設資金として四五〇万円を支払った。

ところが、被告会社は、同年一一月ころまでに前原東校のために新聞折り込み広告を一回、加布里進学校のために散らしの配付や新聞折り込み広告を計四回お座なりに行ったのみであった。その結果、入塾した生徒は、前原東校では多くて一一名であり、加布里進学校では四名にすぎなかった。また、被告会社から派遣されてきた講師一一名は、教員資格を有する一名を除いてアルバイト学生であり、いずれも被告会社の講習を受けた者ではなかった。そこで、宇佐美は、被告会社に対し、再三、生徒募集の活性化や専任講師の派遣を要求したが、被告会社は、何ら実効的な措置を取らなかったので、同月ころ、被告会社に対し、右加盟契約を解除した。

4  原告才野関係

原告才野は、北九州市内の病院で臨床検査技師として勤務する者であるが、平成元年一月初めころ、被告会社の塾開設を勧誘する新聞折り込み広告を見て、自宅の空き部屋を利用して塾を経営しようと考え、被告会社に問い合せの電話をした。すると、同月中旬ころ、被告会社の営業担当社員である被告青木は、原告才野を訪れ、ひと通りの説明をした上で、「ここで開塾して経営が成立するかどうか審査する必要があるので、後日連絡します」と述べた後、同月二一日、被告会社の社員である柴田とともに原告才野を訪れ、「お宅は中学校二校と隣接しており、この上もない最も良い立地条件で、数ある教導塾の中でも申し分ない。被告会社は市会議員のコネがあり、これに頼めば生徒の名簿が手に入るから、その名簿をもとに勧誘すれば生徒はすぐ集まる。新聞の折り込み広告や説明会は会社が責任をもってやる。その他生徒集めは会社の方でします。講師は特別の講習を受けた者たちばかりだ。競合する教導塾の設置は制限する」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そこで、被告青木の右説明を信用した原告才野は、同月二五日、教導塾門司東校の加盟契約を締結し、その開設資金二五〇万円を支払った。

ところが、被告会社は、同年三月一〇日及び同年四月三日に説明会を二回開催したにすぎず、しかも、その参加者は一組であり、四月の開塾後も生徒は一名であった。また、被告会社が派遣した講師は被告会社の社員であり、その講義内容も生徒に一人で問題集を解かせるだけというものであった。そこで、原告才野は、被告会社に対して右講師の派遣を断り、その後は原告才野自身が生徒に教える状態であったにもかかわらず、被告会社は右のような事態を放置した。そして、同年八月ころ、原告才野が右加盟契約を締結する以前から原告才野の右塾の近くに教導塾関門校が設置されていたことを知った原告才野は、直ちに再三にわたって被告会社に苦情を申し入れたが、被告会社の担当者は「申し訳ない」と言い逃れをするだけであったので、平成二年二月六日、被告会社に対し、右加盟契約を解除した。なお、右教導塾関門校も遅くとも、同年八月までには閉鎖した。

5  原告桜原関係

原告桜原は、自宅において染色デザインを業としている者であるが、昭和六三年七月ころ、自宅四階建てビルの空室になっていた一階部分の利用方法を考えていたところ、被告会社の塾経営を勧誘する新聞折り込み広告を見て被告会社に問い合せの電話をした。すると、二、三日後に訪れて来た被告会社の社員である佐藤は、原告桜原に対し、「ここはAランクの立地条件で塾をするには最高です。生徒は私たちが最低でも二〇名集めます。最初は一七、八万円の収入ですが、徐々に三〇ないし四〇万円の収入が上がるようになります。講師はきちんとした立派な講師をつけます」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。その際、佐藤は、開設資金二八〇万円が高額すぎるとしてためらっている原告桜原に対して、モデル教室とすることを理由に右額を二三〇万円に減額することを提案した。その後も、右勧誘の際佐藤が求めていた学齢期の子供の名簿を入手できずにいた原告桜原に対し、佐藤及び柴田は「名簿はこちらで入手したから確実に生徒が集められる」などと説明して重ねて加盟契約の締結を勧誘した。そこで、佐藤及び柴田の右説明を信じた原告桜原は、同年八月一日東大教育センターモデル教室春日教室の加盟契約を締結し、開設資金二三〇万円を支払った。

ところが、被告会社は、塾開設に当たり、新聞折り込み広告を一回出して説明会を開いたが、参加した父兄は二、三人にすぎず、同年九月開塾したものの生徒は二名しか集まらなかった。そこで、原告桜原は、被告会社に苦情をいったが、結局、時期が悪いので一度休み、時期のよい三月に再開するとの被告会社の答えを信じて一一月に一度休塾し、平成元年三月に再度説明会を開いて塾を再開したが、やはり生徒は二名しか集まらなかったので、同年八月には再び休塾した。その後、同年一一月に再開したものの、平成二年五月以降現在に至るも生徒はわずか三名である。しかし、実際には、右佐藤らは子供の名簿も入手していなかったばかりでなく、被告会社が派遣した講師八名は、教員経験のある一名を除いて塾講師の経験がない者やアルバイト学生であり、いずれも被告会社の研修を受けた者ではなく、しかも次々に短期間で交替していった。そこで、原告桜原は、何度となく被告会社に対し、生徒を集めて塾を活性化させる措置を取るよう求めたが、被告会社が何ら有効な措置をしなかったので、右塾を平成三年一月に閉鎖した。

6  原告青木関係

原告青木は、父親が経営する建設、土木会社の手伝いをしていた者であるが、平成元年二月初旬ころ、被告会社福岡支社から電話で「塾経営に興味はありませんか。説明だけでも聞いて下さい」という勧誘を受けたため、仕方なく面会の上説明を受けることにした。すると、同月二一日、被告神は、原告青木を訪れ、塾経営の経験もなく時間もとれない旨を話して断る原告青木に対し、「お金を出してもらえればあとはすべて私どもの会社でやります。生徒の募集は会社が責任をもって致します。講師は広島本社で教習を受けた優秀な人を派遣します。七〇名の生徒が集まれば月四〇万円の利益になります。月四〇万円は確実です。七〇名は会社が保証する。それだけ集まらなければロイヤリティはいただきません」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そこで、被告神の右説明を信じた原告青木は、被告会社がすべてやってくれるのであれば自分もできると思い、同日教導塾大牟田進学校の加盟契約を締結して内金一〇〇万円を支払い、更に、同月二八日までに開設資金として合計三七〇万円を支払った。

ところが、同年四月に被告会社が開催した説明会の参加者は一名のみで、塾開設後の生徒はわずか一名のみであった。また、被告会社が派遣した講師四名のうち、当初二回程は問題のない講師が来たものの、その後は女子短大のアルバイト学生や被告会社の社員が手伝いに来る状況であったので、原告青木は、被告会社に対して再三文句をいったが被告会社からは何らの対応もなく、結局、同年六月末に閉塾を余儀なくされた。

7  原告藤木関係

原告藤木は、サラリーマンの夫を持つ主婦であるが、平成元年一二月初旬ころ、被告会社の塾経営を勧誘する新聞折り込み広告を見て、自宅の空室を利用して塾経営をしようと考え、被告会社に問い合わせの電話をした。その数日後、原告藤木が訪れた被告会社の社員である善は、「当社は、資本金八億の全国規模の会社です。当社の塾が開校して成功しなかった例はありません。生徒の人数が集まらないところなど一件もないのです。ここは新しい団地なので立地条件も最高です。ただ、当社の塾が近くにあると困るのでこの点だけ調査させて下さい」などと説明し、その後も、原告藤木を訪れて「ここから半径三キロ以内に当社の塾はありません。ここは立地条件がいいから間違っても生徒数が一〇名を下ることはありません。当社はきちんとした専任の講師を派遣するから口コミでいい噂が広がってすぐに増加します。子供会の名簿はこちらで入手します」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そこで、善の右説明を信用した原告藤木は、同月二五日教導塾みどりヶ丘進学校の加盟契約を締結し、その開設資金として二七〇万円を支払った。

ところが、被告会社は、平成二年四月の開塾に当たり、新聞折り込み広告を出したりしたが、説明会に参加した父兄は五、六人であり、生徒も小学生がわずか二名であった。そして、そのころ、自宅から約三〇〇メートル離れた同じ団地内に教導塾が開設されていることを知った原告藤木は、被告会社の担当者である大谷に問い質したところ、大谷は、「募集する生徒が競合することはありません。心配はいりません。夏休み前には生徒を集めますから問題ありません」などと弁解するのみで、被告会社は、同年七月に新聞折り込み広告を一度出しただけで生徒の積極的な募集をしなかった。また、被告会社が派遣した講師も大学のアルバイト学生や被告会社の社員で小学生を教える能力もなく、きちんとした授業は行われなかったので、生徒も同年一〇月までには全員辞めていなくなった。そこで、原告藤木は、再三被告会社に対して生徒募集や専任講師の派遣による塾の内容の充実や活性化を求めたが、被告会社は「来年四月の結果を見て下さい」というのみであった。その後、被告会社が平成三年三月下旬ころ開催した説明会には四人の父兄が参加したのみで、入塾希望者も一名のみであったため、原告藤木は、大谷に対して「あまりに話が違いすぎます」と難詰したところ、大谷が「これ以上塾を続けても無駄だと思います」等と述べるだけだったので、同月限り右塾を閉鎖した。

8  原告古賀関係

原告古賀は、自宅において漆芸、彫金教室等を営む者であるが、平成二年六月中旬ころ、被告会社から電話で「塾を経営してみませんか。高収入が得られますよ」などと塾開設の勧誘を受けた。その後、同月一八日、被告神は、原告古賀を訪れ、被告会社の経営内容や経営状況を説明した後、その翌日も原告古賀を訪れ、「総合評価指数0.76」との記載ある調査結果集計表(甲六六の一)や教室経営試算表(甲六六の二)等を示したりしながら、「生徒募集は会社が責任をもってやる。近辺の学校にはこれだけの生徒がいるのだから十分に利益をあげるだけの人数を集めうる状態にある。七〇名の生徒が集まれば月四〇万、少なくとも二〇人は集まりますから、月一〇万の利益は出ますよ。生徒は会社で責任をもって集めますから、心配いりません。講師も広島で特別な講習を受けた専任講師で、大丈夫です」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。そして、同月二二日、被告前田は、被告神とともに原告古賀を訪れ、生徒募集を危惧する原告古賀に対し、「お願いだからやって下さい。何をいうのですか。我々はプロですよ。生徒は必ず集めてみせます」などと説明して重ねて加盟契約の締結を強く勧誘した。そこで、被告神や被告前田の右説明を信じた原告古賀は、同二九日、教導塾大野校の加盟契約を締結し、その開設資金として三七〇万円を支払った。

ところが、被告会社が開塾に先立ち開催した説明会の第一回目(同年八月一日)の参加者はなく、第二回目(同年九月一日)の参加者も一名のみであり、生徒は開塾時一名で、その後も三、四名しか集まらなかった。そこで、原告古賀は、被告会社に対し、生徒募集を再三要請したが、被告会社は新聞折り込み広告やポスター貼りを各一回したのみであった。また、被告会社が派遣した講師も特別な講習を受けた専任講師ではなく、教員養成所のアルバイト学生や被告会社の社員などであった。そこで、原告古賀は、被告会社に苦情をいっても被告会社が何ら有効な措置をしないので、平成四年三月、塾を閉鎖した。

9  原告池田関係

原告池田は、クリーニング業を営む者であるが、平成三年四月初めころ、その所有マンションの借り手を探していたところ、被告会社の営業担当社員である西出を紹介された。西出は、原告池田に対し、時間割アンド利益分配表(甲七二の三)を示しながら「小中学校コースの定員は七二名だが、半分くらいはすぐに楽々集まりますよ。生徒集めはすべて会社の方でします。ただ、現地調査をしてみなければわかりません」などと説明し、更に約一週間後、「現地調査したら、この地区はA級でこんなに良い所はない。絶対始めなければ損だ。定員の半分は楽々集まりますよ。会社の方で集めます。ロイヤリティが今だと安い。今を逸したら良くない。来年にすれば利益が減る」などと説明して加盟契約の締結を強く勧誘した。そこで、即時塾を開設する方が有利だと考えた原告池田は、西出から連れて行かれた教導塾周船寺校で「なんとか経営していけますよ」などの話を聞いた結果、西出の右説明を信じて、同月一五日、教導塾横手校の加盟契約を締結し、その開設資金として合計三七〇万円を同月二六日までに支払った。

ところが、被告会社が派遣した講師五名は、教員養成所や大学院などのアルバイト学生がほとんどであり、生徒も終始四名にすぎず、しかも、その生徒も平成四年二月までに次々とやめていったため、同年四月から右塾は事実上閉校状態となった。その間、原告池田は、再三にわたって被告会社に対して生徒募集を要求したが、被告会社は、「今は時期が悪い。もう少し待って夏ごろはどうですか」というのみで何らの措置もとらなかった。

10  原告溝口関係

原告溝口は、住居・店舗の賃貸業を営む者であるが、平成三年三月ころ、賃貸用のワンルームマンションが空いていたことから、被告会社の新聞折り込み広告を見て電話した。その約二時間後、被告神は、原告溝口を訪れ、「日本教育開発は一七年の実績があり、信頼できる会社である。広告に書いてある程度の収益は間違いない。あそこなら絶対に大丈夫です。絶対に成功します。講師は、被告会社の講習を受けた者を派遣する」などと説明して加盟契約の締結を勧誘した。その三日後、原告溝口は、被告神らとともに被告会社福岡支社に行ったところ、その当時被告会社福岡支社長であった被告前田から、「半径1.5キロメートル以内に小中学校が合計五校あるので成功は間違いありません。成功を保証します」などと加盟契約の締結を勧められた上、被告神に連れて行かれた教導塾泉教室でも「教導塾経営はいいですよ。是非やりなさい」と勧められた。そこで、被告神や同前田の右説明を信用した原告溝口は、同月一三日、教導塾前田校の加盟契約を締結し、その開設資金として合計三七〇万円を同年四月一七日までに支払った。

ところが、被告会社は、同年五月二九日になってようやく説明会を開いたものの、生徒は三名しか集まらなかった。また、被告会社が派遣した講師二名は、いずれも女子短大のアルバイト学生や就職浪人であり、被告会社の講習を受けた者ではなかった。その後、原告溝口は、被告会社に対し、生徒募集等について再三要求したが、被告会社からは何らの措置もとられることもないまま、平成四年三月で右生徒全員がやめていったため、閉塾した。

11  原告本坊関係

原告本坊は、平成三年に夫を亡くし、子供を抱えて生活をしている者であるが、平成四年六月初旬ころ、「教室オーナー募集」という塾経営を勧める被告会社の新聞折り込み広告(甲六〇)を見て被告会社に電話した。そうすると、被告青木は、すぐに原告本坊を訪れ、会社概要と題するパンフレット(甲六二)を示して会社の説明をし、右広告の内容をひと通り説明してその日は帰ったが、「塾生が二〇名いれば月々約一〇万円の収入がある。塾生集めは会社の方でする。講師は会社で養成した専任講師の中から良い人を選んで派遣する。塾に週一回だけ来てもらってお金の管理だけすれば良い」などと説明して加盟契約の締結を強く勧めた。そこで、右説明を信じた原告本坊、同月一七日、教導塾野方校の加盟契約を締結し、その開設資金として合計三九五万円を同月一八日までに支払った。

ところが、被告会社は同年八月に説明会を開いたものの、参加者は三名にすぎず、また九月に開塾した際の生徒も最大で三名であった。また、被告会社は、新聞折り込み広告を一回出したが、その後は生徒募集の広告などをしないばかりでなく、被告会社が派遣した講師二名のうち、最初の講師は二回で辞め、次の講師はアルバイト学生であり、いずれも被告会社の講習を受けた者ではなかった。そこで、原告本坊は、被告会社に再三文句を言ったが、被告会社が何ら具体的な措置をしなかったので、同年一二月に右加盟契約を解除し、塾を閉鎖した。

二  被告らの責任

1  被告神ら担当者の不法行為責任

前記認定事実(一の1ないし11)によれば、被告神ら担当者は、各原告に対する加盟契約締結の勧誘に際して、いずれも、その当時被告会社が確実に生徒を多数集めることができるという見通しもなく、また、被告会社が派遣する講師は被告会社が研修、養成した専門の講師でないにもかかわらず、各原告に対し、被告会社が生徒を多数集めることや被告会社が研修、養成した専門の講師を派遣することを確約したり、あるいは、被告青木や善は、原告才野や同藤木に対してその開設する塾の周辺に既に同種の教導塾があるにもかかわらずこれを告げなかったり、被告会社が資本金八億円の会社であるなどの虚偽の内容を説明していたことは明らかである。そして、被告会社との間で加盟契約を締結して塾経営を意図する者にとって、まず生徒数の確保と優秀な講師の存在が必要不可欠な重要な要素であることはいうまでもないところであり、更には開設予定の塾の周辺に競争相手となるような同種塾が存在しないことや被告会社の規模もこれまた重要な要素というべきである。その意味において、これらの重要な点について、右のように虚偽の内容を説明した担当者の勧誘行為が違法なものであることは明らかといわなければならない。そして、前記認定事実(一の1ないし11)から認められる、担当者は、いずれも各原告に対する勧誘行為の当初から、右虚偽の内容を何のためらいもなく、かつ、執拗に繰り返し説明していること、担当者が各原告に対して説明した虚偽の内容がいずれも生徒募集や専門講師の派遣などを被告会社が確約するという定型的なものであること、特に、被告神及び同青木は、平成元年から平成四年までの長期間にわたり、右虚偽の内容を説明するという同一の行為を、複数の原告に対して行っていること、加盟契約締結後の各原告からの苦情に対し、担当者や被告会社は、極めて不誠実な対応で終始、開設後の塾経営に全くといっていい程に熱心ではなかったことなどの事情、前掲甲六六の一〇から認められる被告会社から原告古賀の教導塾大野校に派遣された講師の今村麻里は、被告会社福岡支社での上司と部下の会話などから被告会社が営業中心に活動している会社との印象を受けた事実、第一三回口頭弁論期日において、被告らは、当裁判所より被告会社と加盟契約を締結した者で福岡県内における成功例を明らかにするよう釈明命令を受けたにもかかわらず、遂にこれを明らかにしなかったばかりでなく、被告神や同青木ら担当者も本件訴訟において右勧誘行為の際の事情について全く説明しようとしなかったなどの被告らの応訴態度、更には、被告神が原告古賀に示した調査結果集計表の「総合評価指数0.76」との記載内容について、当時の被告会社の福岡支社長であった被告前田は、その本人尋問において具体的な説明が全くできなかったことなどを総合して考慮すると、担当者は、その説明内容が虚偽であることを知りつつも、各原告に加盟契約を締結させて各原告から開設資金名下に金員を得ることを目的として右違法な勧誘行為をしたものと推認するのが相当であるから、結局、担当者の右違法な勧誘行為は、各原告に対する詐欺的行為として不法行為に該当するといわなければならない。したがって、担当者は、いずれも対応する別表二各項の原告欄記載の各原告に対し、民法七〇九条の定めにより、それぞれ、右違法な勧誘行為によって各原告が被った後記損害を賠償する義務を負っていることになる。

2  被告会社の不法行為責任

前記争いのない事実(第二の一の2)及び認定事実(一の1ないし11)によれば、担当者は、被告会社福岡支社の社員として、被告会社の事業の執行につき、それぞれ前記1で判断したように各原告に対する不法行為である違法な勧誘行為を行い、各原告に対して不法行為責任を負っていることは明らかである。そうすると、各原告主張のその余の責任原因の有無につき判断するまでもなく、被告会社は、民法七一五条の定めにより、担当者の使用者として、担当者と連帯して各原告の後記損害を賠償すべき義務を負っていることになる。

3  被告末森らの不法行為責任

担当者は、前記1及び2で判断したとおり、被告会社の事業の執行につき各原告に対する前記認定(一の1ないし11)の不法行為を行った者であるところ、その当時、被告末森らがそれぞれ別表二記載のとおり被告会社福岡支社長であったことは当事者間に争いがないから、被告末森らは、担当者の上司として、使用者である被告会社に代わって現実にその事業の執行を監督する地位にあったものというべきである。そうすると、各原告主張のその余の責任原因の有無につき判断するまでもなく、被告末森は原告今田、同和興産業、同ヤマトハウス及び同才野に対し、被告佐々木は原告藤木に対し、被告前田は原告古賀、同池田及び同溝口に対し、民法七一五条二項の定めにより、それぞれ担当者及び被告会社と連帯して右原告らが被った後記損害の賠償義務を負っていることになる。

4  被告横山らの不法行為責任

(一) 証拠(甲五ないし一〇、二三、二八、二九、三六、三八の一及び二、三九の三、四、六及び一一、四〇の一ないし七、四一ないし四八、六〇、六二、八一、八二、原告和興産業代表者、被告末森、同横山、同上杉及び同前田の各供述)によれば、次の事実が認められる。すなわち、

(1) 加盟契約をめぐっては、既に、昭和六〇年八月九日付け北国新聞に「経営不振で契約無効の訴え」の見出しとともに加盟契約無効の訴えが金沢地方裁判所に提起された記事が、同年一〇月三日付け読売新聞に「塾経営トラブル続出」の見出しとともに被告会社を被告とする加盟契約をめぐる訴訟が提起された記事がそれぞれ掲載されるなど、昭和六〇年以降、被告会社の社員が加盟契約締結の勧誘に際して生徒数の確約や派遣講師の内容について事実と異なる説明をしたとして本件と同様の紛争が生じているなどの報道がされていた。また、被告会社との間で加盟契約を締結した者から被告会社に対し、本件と同様に、加盟契約締結の勧誘に際して被告会社の社員による不法行為があったとして被告会社に支払った開設資金などについての損害賠償請求等の訴訟が、昭和五九年、昭和六〇年、昭和六二年にはそれぞれ大阪地方裁判所に、平成元年には大阪、奈良、京都、福岡の各地方裁判所に、平成二年には那覇地方裁判所にそれぞれ提起されており、平成四年九月二二日当時、少なくともその数は一四件、原告数は六四名に達している旨の報道がされていた。そして、昭和六〇年に大阪地方裁判所で和解が成立したのを始め、平成元年に大阪地方裁判所で、平成二年に大津、奈良、京都及び福岡の各地方裁判所でそれぞれ被告会社が請求金額の約五割以上を支払う旨の和解が成立したが、その際には、被告会社の取締役会において和解に応じる旨の議決がされていた。

(2) 被告会社の社員が塾経営の電話勧誘を行うに際しては、「先生の派遣とか生徒の募集……開設後の運営管理等に至るまですべて私共の方でやっていく」旨を言うように指導されていた。また、「教室オーナー募集」と題する被告会社の新聞折り込み広告(甲二三、六〇)には、開設に当たっては「教師派遣、生徒募集……事務処理等に至るまで当本部が一切指導いたしますので素人の方でもご安心です」などと記載されているばかりでなく、昭和五九年発行の東大教育センターに関する「教室経営の手引」と題する被告会社のパンフレット(甲三九の三)や昭和六三年及び平成四年発行の「会社概要(塾経営の手引)」と題する被告会社のパンフレット(甲五、六二)には、「本部には、常に厳しい面接試験等をパスした優秀な講師が多数登録されています。その中から皆様の経営される教室専任講師として最適と思われる人を選び、指導をした上で本部より推薦派遣いたします」旨がそれぞれ記載されていた。

(3) 被告会社の社員は、平成元年ころ、沖縄県において、本件と同様に、生徒数の確保を確約したり、被告会社が養成した専門の講師を派遣することを確約するなどの虚偽の内容を説明して加盟契約締結を違法に勧誘し、これに応じた者に多額な開設資金を支払わせたが、被告会社は、右金員や各原告が支払った開設資金を、いずれも全額広島の被告会社の本社に送金させていた。

(4) 被告上杉は、平成二年一〇月六日、本件訴訟に先立って原告代理人の事務所で開かれた被告会社と加盟契約を締結した者らのいわゆる被害者説明会に教導塾泉校の経営者と称して出席した上、「我々は、被告会社と協調的に行動すべきであって、訴訟などはすべきでない」などの意見を発表して本件訴訟の提起を妨害した。なお、教導塾泉校は、平成四年九月ないし一〇月ころには閉鎖されていた。

以上の事実が認められる。

(二) ところで、被告横山及び同前田は、被告会社が派遣した講師については、概略、講師の資格審査に当たっては三段階の試験、すなわち、第一次試験は面接と基礎学力試験として英語と数学の採用試験を行い、第二次試験は研修、第三次試験は各教室での実地研修を行い、合格者を各教室に配属させるというシステムを取り、これらは指導部が担当し、本件においては福岡本部において行った旨供述し、被告末森も同旨の供述をする。

しかし、前記認定事実(一の1ないし11)のとおり、本件において、被告会社から派遣された講師の中には教員資格を有する者も数人いるが、そのほとんどはアルバイト学生であり、広島本社はもちろん福岡支社での研修は全くといっていいほど受けていないことは明らかである。そして、被告らは、本件訴訟において、被告会社の本社ないしは福岡支社での右講師採用面接試験の方法や成績、あるいは講師研修会における資料や成績などについて、これを認めるに足りる具体的な証拠を全く提出しようとしないばかりでなく、被告前田も、その本人尋問において、福岡支社長の地位にあったにもかかわらず、被告会社の福岡本部で実施したとする研修の回数や開催された場所、研修の具体的内容について明確な供述をしないことなどからすると、被告会社ではその派遣する講師に対して塾講師にふさわしい研修は全く行っていなかったものと認めるのが相当であり、その反面、被告横山らの右供述内容は明らかに信用できない。

(三) そこで、被告横山らの不法行為責任を検討するに、まず、前記認定((一)の(1))のとおり本件訴訟提起日(平成二年一一月二〇日)より以前に本件と同一の紛争が全国各地で発生し、被告会社を被告とする訴訟が多数提起されていたなどの事実からすると、被告横山らは、加盟契約をめぐっては、本件と同様に、その締結を勧誘する被告会社の社員によって違法な勧誘行為がなされていることを既に知っていたものと認めるのが相当である。この事実に前記認定((一)の(4))のように被告上杉が本件訴訟提起前に虚構の肩書を名乗ってその妨害を画する行為をしていた事実や前記のように被告横山や同上杉らが、本訴において被告会社が派遣した講師についてその採用面接試験の方法や成績、講師研修会における資料や成績などについての具体的な証拠を全く提出しようとしないばかりでなく、逆に積極的に前記認定事実(一の1ないし11)と異なる供述をするなどの被告横山らの応訴態度を総合して考慮すると、本件において、被告横山らは、当初から被告会社で研修、養成した専門講師を派遣する意思はなかったにもかかわらず、前記認定((一)の(2))のように右講師派遣を、電話勧誘において言わせたり、被告会社発行の会社概要や新聞折り込みに記載の上配付したものと推認するのが相当である。そして、これらの認定事実に、被告横山、同上杉及び同前田の各供述から認められる、本件のような加盟契約のシステムを作ったのは被告佐藤であり、その後現在に至るまで、被告横山らは被告会社の代表取締役ないしは取締役として加盟契約締結を全国に推進拡大してきた事実や被告会社の取締役会は毎月一回ほぼ全員出席のもとに開催され、加盟契約をめぐる訴訟などについてはその議題となっていた事実、前記認定((一)の(3))の被告会社福岡支社が加盟契約で得た開設資金はすべて広島の被告会社の本社に送金されていた事実を総合すると、被告横山らは、被告会社の代表取締役ないし取締役として、担当者が開設資金名下に金員を得るために前記認定事実(一の1ないし11)のとおり派遣講師について虚偽の内容を説明することはもちろん、生徒募集や周辺における同種塾の存在についても同様虚偽の内容を説明することもすべて容認していたものと推認するのが相当である。被告らが提出する通達等の文書(乙一五七ないし一六五)は、被告らの前記応訴態度からしてすぐには信用できず、右認定の何らの妨げとはならない。以上総合すると、被告横山らは、前記認定(一の1ないし11)の担当者の各原告に対する違法な勧誘行為により各原告から開設資金を不法に取得したものと認めるのが相当であり、結局、右行為は担当者とともにする被告横山ら自身の不法行為というべきであるから、各原告主張のその余の責任原因の有無について判断するまでもなく、民法七〇九条、七一九条一項の定めにより、担当者や被告会社などの前記賠償義務者と連帯して、各原告が被った後記損害を賠償すべき義務を負っているものといわなければならない。

三  各原告の損害

1  開設資金

各原告が別表二の開設資金欄記載の各金員を開設資金として被告会社に支払ったことは当事者間に争いがなく、右各金員が被告らの不法行為によって各原告から出捐されたものであることは前判示のとおりであるから、被告らは、右各金員すなわち、原告今田及び同和興産業は各三五〇万円、同ヤマトハウスは八〇〇万円、同才野は二五〇万円、同桜原は二三〇万円、同青木は三七〇万円、同藤木は二七〇万円、同古賀、同池田及び同溝口は各三七〇万円、同本坊は三九五万円をそれぞれ各原告に賠償しなければならない。

2  慰謝料

原告今田、同才野、同桜原、同青木、同藤木、同古賀、同池田、同溝口及び同本坊は、被告らの不法行為により相当の精神的苦痛を被ったとして前記慰謝料を請求するが、前記認定の本件における一切の事情を考慮すると、被告らの不法行為によって被った各原告の精神的損害は、その出捐した前記開設資金相当額の賠償、すなわち、財産的損害の賠償を得ることによって償われるものと認めるのが相当である。したがって、本件慰謝料の請求は、理由がない。

3  弁護士費用

原告桜原及び同青木を除くその余の各原告が請求する弁護士使用につき判断するに、弁論の全趣旨によれば、各原告が、本件訴訟追行を弁護士である原告ら訴訟代理人らに委任し、同代理人らにより本件訴訟が追行され、同代理人らに対して相当額の報酬の支払いを約束したことは認められるが、本件事案の性質、事件の経過、認容額等に鑑みると、本件不法行為と相当因果関係にある損害額と認められる弁護士費用は、原告今田、同和興産業、同古賀、同池田、同溝口及び同本坊についてはそれぞれ四〇万円、原告ヤマトハウスは八〇万円、原告才野及び同藤木はそれぞれ三〇万円とするのが相当である。

四  過失相殺

前記認定事実(一の1ないし11)及び前判示(二の1ないし4)のとおり、本件は、主として、各原告の経済的状況や心理状態を巧みについた担当者の詐欺的行為ともいうべき巧妙かつ執拗な勧誘行為によって生じたものである。したがって、このような状況の下では、仮に各原告にもっと冷静に対処すべき点があったとしても、それは担当者の虚偽の説明により誘発されたものとしてその責めはすべて被告らに帰するのが相当と認められるので、右事情に照らせば、衡平の原理に立脚した過失相殺を本件において認めることは許されないというべきである。特に、本件のような場合に過失相殺を認めることは、本来被告らが保有することの許されない担当者の詐欺的行為による不正な利益の保有を一部とはいえ認めることと同じ結果になるので、到底容認することはできないものといわなければならない。したがって、被告らの過失相殺の主張は採用できない。

別表

被告

原告

請求額

(円)

認容額

(円)

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同末森、同神

原告今田

四四〇万

三九〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同末森、同久徳

同 和興産業

三九〇万

三九〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同末森

同 ヤマトハウス

八八〇万

八八〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同末森、同青木

同 才野

三三〇万

二八〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同森本

同 桜原

二八〇万

二三〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同神

同 青木

四二〇万

三七〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同佐々木

同 藤木

三五二万

三〇〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同神、同前田

同 古賀

四六二万

四一〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同前田

同 池田

四六〇万

四一〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本、同前田

同 溝口

四六〇万

四一〇万

被告会社、同横山、同上杉、同佐藤、同中村、

同山田、同森本

同 本坊

四八五万

四三五万

別表

原告

担当者

支社長

契約締結年月日

開設資金(円)

原告今田

被告神

被告末森

平成元年一月三一日

三五〇万

同 和興産業

同 久徳

右同

平成元年一月二六日

三五〇万

同 ヤマトハウス

道前城太郎(以下「道前」という。)

右同

昭和六三年一二月一五日

(教導塾前原東校分)

三五〇万

平成元年二月一日

(教導塾加布里進学校分)

四五〇万

同 才野

被告青木

右同

平成元年一月二五日

二五〇万

同 桜原

佐藤正信(以下「佐藤」という。)

柴田満治(以下「柴田」という。)

昭和六三年八月一日

二三〇万

同 青木

被告神

平成元年二月二一日

三七〇万

同 藤木

善克己(以下「善」という。)

被告佐々木

平成元年一二月二五日

二七〇万

同 古賀

被告神

被告前田

平成二年六月二九日

三七〇万

同 池田

西出重人(以下「西出」という。)

右同

平成三年四月一五日

三七〇万

同 溝口

被告神

右同

平成三年三月一三日

三七〇万

同 本坊

同 青木

平成四年六月一七日

三九五万

五  結論

以上のとおり、各原告の本訴請求は、別表一各項の被告欄記載の各被告に対し、それぞれ不法行為責任による損害賠償として同項認容額欄記載の金員及びこれに対する各不法行為日後の日である平成五年九月一一日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、原告和興産業及び同ヤマトハウスを除くその余の各原告のその余の請求はいずれも理由がないから、これを棄却する。

(裁判長裁判官中山弘之 裁判官瀧聡之 裁判官野本淑子)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例